岡山地方裁判所 昭和59年(ワ)398号 判決 1991年12月20日
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
一 請求
被告は、原告らに対し、各金四〇五万五〇〇〇円及び内金三六九万円に対する昭和五六年七月二九日から支払清みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 事案の概要
1 争いのない事実
昭和五六年七月二八日、岡山市築港新町一丁目一八番五号先市道上において、被告運転の普通乗用自動車(以下「本件普通車」という)と、塩尻明久及び日地良雄の乗車する自動二輪車(以下「本件二輪車」という)とが衝突し、これにより塩尻明久が腹部胸部外傷、両上肢左下肢骨折等の傷害を負い死亡した(以下「本件事故」という)。
被告は、本件普通車を使用して運行の用に供していたところ、前方不注視及び安全運転義務違反の過失により、本件事故を惹起したものであるから、自賠法三条の運行供用者責任及び民法七〇九条の不法行為責任を負う。
原告らは塩尻明久の両親であり、同人を相続した。
原告らは、自賠責保険より本件事故に基づく損害賠償金として二〇〇〇万円の填補を受けた。
2 主な争点
主な争点は、過失相殺の認否程度である。この点に関し、被告は、本件事故の際、塩尻明久が本件二輪車を運転しており、同人には著しい速度違反、前方不注視及び安全義務違反の過失があったから、その過失割合は五割を下らない旨主張するのに対し、原告らは、右事故の際、右二輪車を運転していたのは日地良雄であり、塩尻明久は、これに同乗していたものであるとして、過失相殺を争う。
三 判断
1 塩尻明久の損害額
<1> 逸失利益
甲第二、第九号証及び弁論の全趣旨によれば、塩尻明久は、昭和三八年一二月二〇日生れで、本件事故当時一七歳の男子高校生であり、昭和五八年四月(一九歳)には就職予定であったことが認められる。
ところで、昭和五六年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計の一九歳男子労働者の年間平均給与額は一五八万七五〇〇円、事故当時の一七歳から六七歳までの就労可能年数五〇年に対応する新ホフマン係数は二四・七〇一、右一七歳から就労開始年齢一九歳までの二年に対応する新ホフマン係数は一・八六一であり、生活費控除割合は五〇パーセントが相当であるから、塩尻明久の逸失利益は、左記計算式のとおり一八一二万九二五〇円と認めるのが相当である。
1,587,500×(24.701-1.861)×0.5=18,129,250
<2> 慰謝料
前記認定の塩尻明久の年齢、立場等を総合考慮すると、その死亡による慰謝料は一二〇〇万円と認めるのが相当である。
<3> 本件二輪車の損害
甲第九号証及び弁論の全趣旨によれば、本件二輪車は橋本芳枝又は橋本享典の所有と認められ、塩尻明久又は原告らが右二輪車の破損によって損害を被ったことについては、これを認めるに足りる証拠はない。
<4> 合計 三〇一二万九二五〇円
2 過失相殺
甲第九ないし第一六号証、第一八、第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二三号証、第二七号証の二ないし一二、第二八号証の一ないし一五、第三〇号証の一、二、乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
本件事故の現場は、南北に通ずる片側二車線の道路と東西に通ずる道路(東方向片側一車線、西方向片側二車線)の交差する見通しの良い交差点であり、付近の制限速度は時速四〇キロメートル毎時であった。
被告は、本件普通車を運転して、北から本件事故現場交差点にさしかかり、対面青信号を見て、右折の合図を出しながら減速し、交差点北側入口で対向車のないことを確認したが、その後は、右折先の道路状況に気をとられ、対向車線の安全を確認しないまま時速一五ないし二〇キロメートルで右折を開始したところ、対向車線上を南方から本件交差点に高速度で直進進入してきた本件二輪車が、右普通車の左側面後部に衝突した。
塩尻明久は、本件二輪車の後部座席に日地良雄を乗せて運転し、制限速度を大幅に越える時速八〇ないし九〇キロメートルで南から現場交差点にさしかかり、そのままの速度で直進しようとしたところ、交差点南側入口手前で自車の進路上に対向車線から本件普通車が右折進入してきたのを発見し、あわてて急制動の措置をとったが間に合わず、自車の前部を右折途中の右普通車の左側面後部に衝突させた。
以上のとおり認められる。
なお、本件二輪車の運転者に関し、甲第四、第一三、第一四、第一八、第一九号証、第二〇号証の二、三、第二二号証には、その者が日地良雄であるとするかのような目撃供述記載の部分があるが、それ自体曖昧かつ変遷があるうえ、いずれも前記認定に供した証拠に反しており、容易に信用できないところである。また、甲第三〇号証の一、二によれば、乙第二号証(鑑定書)は、本件普通車の左ドア面の擦過痕やモールの刻印の存在についての資料のない状態で作成されていることが認められるが、同乙号証の鑑定経過内容に照らし、右擦過痕等の存在によって直ちにその信頼性が左右されるものとは認め難く、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、本件事故について、被告には前方不注視及び対向車に対する安全確認義務違反の過失が存する一方、塩尻明久にも著しい速度違反、前方不注視、対向右折車に対する安全確認義務違反の過失があるものと認められ、現場の道路状況や双方の過失の内容程度を総合勘案すると、右事故における双方の過失割合は五分五分と認めるのが相当である。
四 結論
以上によれば、被告が賠償すべき塩尻明久の損害額は、前記三1<4>の損害合計三〇一二万九二五〇円の二分の一である一五〇六万四六二五円となるところ、塩尻明久の両親である原告らが、自賠責保険より二〇〇〇万円の填補を受けたことは前記二1のとおりであるから、本件事故に関する被告の債務は既に残存しないものというべきである。
よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 矢延正平)